コラム 認知症って?

Treatable dementia(治療できる認知症)

2015年にベビーブーム世代が前期高齢者(65歳以上75歳未満)に達し、そしてその10年後の2025年に後期高齢者(75歳以上)に到達し、高齢者人口がピークを迎えると予想されています。最近の統計では、2025年には65歳以上高齢者の10人に5人が認知症となるといわれています。

高齢化社会が加速度的に進行していく中で、認知症は、介護での家族の負担、収容できる老人保健施設の不足、お世話できる看護師、介護士等の不足などそれぞれが大きな社会問題となっています。
認知症の予防・治療は、今後さらに重要性を増してきますが、アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症の研究は精力的に行われているにもかかわらず、今でも原因がはっきりせず、治療困難な病気です。
 認知症の原因はアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症でおおむね85%を占めています。残りの認知症の中に頻度は高くはありませんが treatable dementia があります。
 治療できるということで、必ず治るという意味ではありませんが、早期発見、早期治療で進行を食い止めて、回復の可能性も十分期待できる認知症です。そういう意味では見逃してはいけない認知症といえると思います。
 別表にお示した様に多くの病気、状態が含まれています。その中で比較的多く見られる病気について簡単に触れてみます。


 

1.正常圧水頭症 (normal pressure hydrocephalus : NPH)

 水頭症とは、脳室に過剰な脳脊髄液が溜まった状態で、通常、脳室拡大、脳圧亢進が認められますが、
NPHは、脳脊髄液が過剰に貯まっているにもかかわらず、圧が高くない(「正常圧」)を特徴とします。

歩行障害・認知症・尿失禁の3兆を呈します。

臨床的にはNPHは、くも膜下出血、髄膜炎、外傷など先行疾患にひき続いて起こる二次性NPH(secondary NPH: sNPH)と、
先行疾患が明らかでない特発性NPH(idiopathic NPH: iNPH)とに分けられます。
治療は髄液シャント手術で症状の改善を認めます。


 

2.慢性硬膜下血腫
 頭部外傷の後、徐々に硬膜下に被膜を伴った血種が形成されて、脳を圧迫することで生じる疾患で、
血種は外傷後、数週間から数か月で増大するのが一般的です。中年以降の男性、アルコール多飲歴のある方に多いといわれています。
 症状は血種の場所、大きさで異なりますが、頭痛、認知障害、手足の麻痺、言語障害、てんかん発作などがあります。
物覚えが悪い、性格変化、行動異常などが出現し、認知症と間違えられることがあります。
頭部CT、MRIで診断は容易で、早期に診断され、穿頭術により、血種を吸引、除去されれば症状は劇的に改善します。
高齢者の頭部外傷では慢性硬膜下血腫発生を考えて置くことが重要です。


 

3.甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症
 甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモン低下に伴う新陳代謝の悪化により、脳の働きが低下し、物忘れ、錯乱、被害妄想、無気力などが出現し、一見認知症のように見えることがあります。不足している甲状腺ホルモンを薬で補うことで、症状が改善します。
日本神経学会のガイドラインでは、認知症と診断した場合に甲状腺ホルモンの測定を推奨しています。
ビタミンB12欠乏症や葉酸欠乏症はアルコール症、偏食、吸収障害を伴う胃腸障害などで起こりますが、
高ホモシステイン血症を介して、認知機能障害が出現するといわれています。


 

4.薬剤性認知障害
 認知障害をきたしやすい薬理作用としては、抗コリン作用、鎮静作用、神経細胞毒性などが代表ですが、
三環系抗うつ薬は、抗コリン作用による認知機能の悪化がみられると言われています。
抗パーキンソン病薬のほとんどがせん妄の原因になるといわれていますが、トリヘキシフェニジルのような抗コリン作用の強い薬剤が、最も注意すべき薬剤です。
向精神薬ではフェノチアジン系薬剤はやはり抗コリン作用が強く、高齢者への使用はできるだけ控えるべきと思います。
抗不安薬、睡眠薬のうちベンゾジアゼピン系薬剤は鎮静作用、抗コリン作用を有しており、せん妄や認知機能障害のリスクとなります。

 1から4 を含め、別表にお示しした疾患は、発病早期に正確な診断がなされれば、治療可能な疾患です。
認知症の診断の際に、これら treatable dementia の存在を念頭に置いておくことが何より大切です。


 

別表

原 因 疾 患 疾 患 名
頭蓋内異常状態 正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍
てんかん
多発性硬化症、ウイルソン病 他
内分泌・代謝疾患 甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症、他
中毒性疾患 鉛・水銀中毒、有機溶剤等の中毒、
アルコール中毒、他
薬剤性 抗うつ剤、抗パーキンソン病薬、向精神薬、
抗不安薬、睡眠薬、他
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